2010年 07月 24日
さて、露出の話も今回が3回目で最終回となり、測光について記載をしたいと思います。 1回目と2回目の話がベースとなりますので、忘れてしまった人は1回目の話と、2回目の話を再度読み直し見てください。 今回は、前回よりも更に長文となります。ゆっくりと腰を据えて、そして覚悟して読んでください(笑) 測光という言葉を辞書で引くと、「被写体の明るさを測定し、露出(絞り値とシャッター速度の組み合わせ)を決めることである」と記載されている。一言で測光と言ってしまいますが、露出を測る代表的な方式には以下の3種類があります (1)スポット測光 (2)多分割測光(平均測光・マルチパターン測光) (3)中央部重点測光 コンデジ等では多分割測光しか搭載していな場合もありますが、殆どのデジイチにはこの3種類の測光方式が搭載され、撮影者が測光方式を選んで撮影を行う事になります。 “私は、そんなの選んだ覚えは無い”という方もいらっしゃるかもしれませんが、ご自分のカメラを良く調べてみて下さい。きっと、このどれかの方式で撮影をしているはずです。 では、この3つの測光方式はそれぞれどのように露出を測っているのでしょうか? カメラは画面の中を幾つかのパターン(エリア)に分けて各々のパターン毎に測光できる機能を持っています。この測光するパターンは各メーカ、各機種毎に違います。下の絵は、簡易的に造った測光パターン(私が勝手に考えた)の例です。 A:中央の一点だけを測光するパターン B1~B4:中央付近を測光するパターン C1~C4:画面の四隅付近を測光するパターン この合計9個のパターンで測光すると仮定して、各測光方式を説明します。 でも、測光方式の名前を見ると何となく判るような気がしますよね(笑) (1)スポット測光 中央のAのパターンだけで測光をします。BのパターンやCのパターンがどんなに明るくても、どんなに暗くても無視をして、Aのパターンのみで測光をします。私が一番多用する測光方式です。 (2)多分割測光(平均測光・マルチパターン測光) 全てのパターンで測光をします。そして、その全てのパターンから得られた測光値から平均値を求める測光方式です。私がスナップを撮影する際に多用する測光方式です。 (3)中央部重点測光 中央のAのパターンと、その周囲のB1~B4のパターンで測光をします。しかし、露出を決める際の測光値として最も重要視されるのがAのパターンで測った値で、B1~B4のパターン測った測光値は露出を決める際に影響度を少なくして算出します。中央に重点を置き、広い範囲も測光する方式と考えればよいでしょうか? 私はこの方式を殆ど使いません。しかし、風景写真等の世界では最も多く使われている測光方式です。 それでは、各々の方式で撮った写真を作例として下に載せてみます。 この作例は、ちょっと意地悪な構図で、地面に落下した夏椿の花を画面中央から少し外した位置に配置してみました。画面の中央は白い花びらで、地面は茶色と黒が混じったかなり暗い色となっています。 尚、この作例は以下の条件を固定して撮影をしています。 カメラ:EOS40D レンズ:標準ズームを使い焦点距離は60mmで固定 絞り:F5.6 ISO:100 露出補正:無し 三脚:有り(カメラを固定して同一の条件で撮影) 作例4:スポット測光 作例5:多分割測光 作例6:中央部重点測光 白い花びらの色に着目してください。作例4のスポット測光で撮った写真はかなりアンダー、作例5の多分割測光や作例6の中央部重点測光ではハイキーな花びらとなっている事が判るかと思います。同じ条件で撮って、測光の違いだけなのに何故こんな違いが出たのでしょうか? 答えは測光の対象物の光の反射率とその面積が関係します。 作例4のスポット測光で撮った写真と測光パターンの例を重ね合わせると下のようになります。 先ほど、スポット測光ではAのパターン(エリア)でしか測光をしないと書きましたので、スポット測光の場合には白い花びらのみで測光をしていることが判ります。露出の話2/3で話をしたことを思い出してみてください。 “カメラは18%グレーを再現できるように造られているので、白をそのまま撮ると明る過ぎると判断して、グレーに近づけるように露出を暗くする”と書きました。つまり、今回の場合、スポット測光で測った位置の色が白なので周りがどんなに暗くてもその部分は測光に影響されず、測光した白をグレーに近づけるように露出が暗くなるようにカメラは露出を判断したことになります。 次に作例5の多分割測光の場合はどうでしょうか? 一見すると、白い花びらが白く写り、土の部分も黒と茶色の部分がちゃんと写っているので良い写りのように思えますが、実際にはちょっと露出はオーバー気味です。夏椿の花びらは白く見えますが実際に部分的にほんのりと薄黄色が残り、この写真では花びらの階調が飛び気味です。 多分割測光では、画面全体を測光して平均値を使って露出を決定します。今回の作例では、画面の中で暗い部分が圧倒的に多いことが判ると思います。全体の面積に占める割合は、おおよそですが、黒に近い土の部分が4割、茶色に近い土の部分が3.5割、白い花の部分が1割、黄色の花弁の部分が0.5割、緑の葉の部分が1割といったところでしょうか? つまり18%グレーよりも反射率の低い面積が7.5割程度占める事になります。このような場合、多分割測光の場合は以下のように露出を判断します。 ①暗い部分:反射率が低いのでもっと、露出を明るくしたいと考えます。 ②黄色や緑の部分:光の反射率は18%に近いので、露出はそのままで良いと考えます。 ③白い花びらの部分:明る過ぎるので、露出をもっと暗くしたいと考えます。 つまり、①の明るくする露出補正と、②の露出補正無しと、③の暗くする露出補正を、各々面積比で計算し、その平均値を露出値としてカメラが算出する事になります。 よって、今回は、①の暗い部分の露出を明るくしたいという面積が圧倒的に多いため、全体的にプラスの補正量で露出が決定され、全体的に明るい露出で写ったこととなります。 次に作例6の中央部重点測光の場合はどうでしょうか? 多分割測光と同様に明るめの写真となり、多分割測光よりも更にオーバーな露出となり、完全に白い花の階調は更に飛び気味となっています。 中央部重点測光の場合、C1~C4のパターンの露出は無視され、AとB1~B4のパターンのみで露出が決定されます。 露出の決定に最も重要視されるのはAのパターンであり、この部分では明る過ぎると判断して暗くなるように露出を決定しようとします。これに対して、B1~B4のパターンでは白い花びらと暗い土の色が混在しているため、その色の反射率と面積比で露出が決定することとなります。 B1:白と暗い色の面積はほぼ同じなので補正無しと考えます B2:B1とほぼ同じ状態ですので、このパターンでも補正は無しと考えます。 B3:この部分では圧倒的に暗い土の色が多いので露出を明るくしたいと考えます。 B4:B3とほぼ同じ状態ですので、このパターンでも露出を明るくしたいと考えます。 つまり、Bのパターンの部分では平均すると露出を明るくしたいというように判断されます。 よって、Aのパターンでは暗くなるように露出を決めたいが、Bのパターンもちょっと考慮に入れて露出を決めます。つまり、Aのパターンで測った暗くなるような補正量にちょっとだけ、明るくなるような補正量を加え、ちょっとだけ暗くなるような補正量を加えるような露出とします。 でも、あれれ? 実際の写真はかなりハイキー? 理屈と合いませんね? 中央の重要視する部分の面積がもっと広くて黒い土の部分まで重要視しているのかもしれません。それに測光するパターンの形状の違いがありますしね。私自身が殆ど使わない測光方式ですのでイマイチ判っていないのかも?(汗) でも、考え方は合っているはずです。 これまで、説明したように、一点だけの露出を測って露出を決定するスポット測光以外の測光方式(多分割測光と中央部重点測光)では、画面の中にある被写体の各々の光の反射率と面積が影響している事が判ると思います。例えば、光の反射率の低い暗い色が大部分を占めるような場面で、光の反射率の高い明るい色が少ない面積だけある場合等は簡単に白飛びを起こし易くなるのです。 ちなみに、このような場面で私が撮る場合は、すかさずスポット測光を選択し、白い花びらで露出を測り、プラス1EVの露出補正を加えて撮ります。 下がその写真で、多分割測光で撮った場合と比べ若干アンダーっで、白い花びらにほんのりと淡い黄色が残り、花びらの質感が出ているのが判ると思います。しかも、土の部分は黒潰れしておらず、ちゃんと色調が残っています。 作例7:スポット測光+プラス1EVの露出補正 かといって、一つの測光方式は万能ではなく、場面場面で使い分ける必要があります。 次に、どんな場面で各々の測光方式が有効なのかを説明したいと思います。 スポット測光が有効な場面 スポット的な陽を利用して被写体を浮かび上がらせたい場合等 明暗を使って、主役を明確にしたいという場合には使いたい測光方式です。 必然的にバックを暗く処理する事が多くなりますので、ややアンダー目に撮ったり、コントラストの調整などをすれば、バック更に暗くなり主役を明確にすることができます。 明確に出したい色がある場合等 白い花を白く写したい場合には目的の色で露出を測る事が重要です。 但し、ネイチャーの場合、自然界って意外と明確な色が存在しません。街中であれば赤や黄色や白や黒と眼で見てはっきりと判る色がありますが、自然界では明確な色の存在は意外と少ないです。なので、たとえばこの色はプラス1EVでOKと判断しても、例えばプラス0.5EVとプラス1.5EV等で露出を変えて撮っておくことも加えて撮る事が意外と重要となります。 多分割測光や中央部重点測光が有利な場合 お祭りや街中のスナップ等で色が豊富にあり、被写体に動きがある場合 このような写真の場合にスポット測光をしてしまうと、測光部に暗い色の半被の人がきた場合と、白っぽい半被の人がきた場合では露出は大きく変わってしまいます。しかし、多分割測光では、平均的な露出を測っているので、中で人が動き回っても殆ど露出には影響はしません。但し、このような写真の場合、曇空を大きく入れると空が白飛びし易くなってしまいますので注意が必要です。 画面一面に豊富な色がある風景的な写真等 色が豊富で画面一面にあるのなら多分割測光は間違いなくお勧めです。 スポット測光のように目的の色を探すことなく、そのまま撮って問題はありません。 但し、この場合でも曇空を大きく入れる事は注意が必要です。青空であれば光の反射率は18%に近いので問題はありません。 以上、3回に渡り露出の話をさせて頂きました。 総括をすると以下の点が要点になります。 (1)露出には標準的な露出とハイキーな露出ローキー(アンダー)な露出があり、デジタルの場合、ヒストグラムを見るとそれを明確に知る事が出来る。 (2)カメラの露出は、光の反射率18%の色を基準にして造られており、明るい色の場合はプラス、暗い色の場合にはマイナスの露出補正が必要となる。そして、一つの色を再現させれば全ての色を再現することができる。 (3)測光方式には、スポット測光と多分割測光と中央部重点測光の3つがあり、被写体に応じて使い分けることが必要。但し、多分割測光や中央部重点測光の場合、各々の色の光の反射率と面積の比率が重要となる。 この3点をちゃんと理解できれば、露出に困る事は殆どありません。但し、頭で理解した知識だけでは写真は撮れません。自分でいろいろと経験をすることが大切です。 また基本を理解できていれば、写真関係の本やWEBを読んでも内容を理解する事ができるはずです。いろんなところから更に高度な知識を得ることに役立つと思います。 本来はここで、AEロックの話をするつもりでしたが、露出の基本だけに専念するために今回の説明からは省きました。このAEロックも高度な知識の一つとなります。 もし、AEロックの方法が判らない場合、ご自分の機種でのやり方を調べてみてください。 最後に、今回は基本を重視することで内容を記載しました。基本を守っていれば良い露出の写真を撮る事が出来ます。しかし、その写真が良い作品となるかは別の話です。作品として見た場合には、標準露出や適正露出以上にアンダーで撮ったり、ハイキーで撮って作者の表現意図を示す場合もあります。 でも、その際にむやみにハイキーやアンダーにするのでは二度と同じような作品を撮る事が出来なくなってしまいます。標準露出や適正露出を理解し、どの程度ハイキーやアンダーにすべきかを作者が決めて作品化をすることが必要となるのです。つまり、標準露出や適正露出などの基本を知る事は自分の表現の幅も広げてくれます。 3回に分けて、しかも長々と書いたエントリ、読んで頂いて感謝いたします。
by chihiro426c3
| 2010-07-24 15:24
| 露出の話
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